【第9回】マクロ経済学(総需要)
前回は短期市場において、総需要曲線を財やサービス市場の視点(IS曲線)でみてきました。短期では賃金や物価が硬直的である中、IS曲線は財やサービス市場を均衡させる実質利子率(r)と生産(所得)水準(Y)の組み合わせでした。
それが、Y=C(Y-T)+I(r)+Gの式でありました。( I(r)=Y-C(Y-T)-G=S(Y) )
※TとGは外生変数
rを縦軸、Yを横軸にとったグラフにおいては、実質利子率(r)が上昇すると投資(I)が減少するため、生産(所得)(Y)が減る、つまりIS曲線は右下がりでした。
一方で今回まとめるLM曲線は、貨幣市場の均衡を考えて実質利子率(r)と生産(所得)水準Yを組み合わせたものです。長期では、実質利子率は財市場で決まるため、貨幣市場の需要と供給は物価により均衡するよう調整されていました。しかし短期では物価は動きません。その際に、貨幣市場の需要と供給はどのように均衡して決定するのでしょうか。
1 流動性選好(Liquidity Preference)理論
・流動性 速やかに換金でき、取引に使える
最も流動性が高いものが貨幣、低いものは定期預金など
貨幣需要は、所得(Y)・実質利子率(r)・期待インフレ率(Eπ)で決まる
・利子率(r) 高いと貨幣を保有する機会費用が高まり、人は貨幣保有量を減らす
・所得(Y) 増加すれば、その分取引需要が増え貨幣需要が増える
※短期では期待インフレ率(Eπ)は一定とする
→貨幣需要関数は右下がり(利子率が上がれば、貨幣需要が下がる)
・貨幣供給は、短期では物価(P)は一定
マネーサプライ(M)も外生変数のため一定(中央銀行によって決定)
→貨幣供給関数は、実質利子率に対して並行(利子率は影響しない)
・貨幣需要は利子率の減少関数に対し、貨幣供給は一定
→需要と供給が一致する点で均衡利子率が決まる
(物価は固定、利子率が需給を均衡させる)
・マネーサプライが減少すると、利子率が上昇するため貨幣供給が左シフト
※マネーサプライ減少により、所得(産出)を一定に保つために預金を引き出す
銀行は減った預金を戻したいため、利子率を上げる
最終的には利子率が均衡水準に到達し、人は満足したバランスを得る
・長期においては、マネーサプライが減少すると物価が下がると予想
※貨幣数量説(MV=PY)
→マネーサプライ減少により、個人は将来のインフレ率低下を予想する
そのため、期待インフレ率が低下し、利子率も下がる
※フィッシャー方程式(i=r+π)
・実際にアメリカでは1970年代に10%を超えるインフレ率が発生
→FRB議長が金融政策によりインフレ抑制を図るため、マネーサプライを減少
→1983年には、インフレ率が3.7%まで低下
※長期となりインフレ率(物価上昇)が落ち着いてくると、
期待インフレ率も落ち着いついてくる
2 LM(Liduidity-Money)曲線
・LM曲線 貨幣需給が均衡する場合の、実質利子率(r)と所得(Y)の組み合わせ
(実質貨幣需要(M/P=L(r,Y))=実質貨幣供給(M/P))
→同じ利子率であっても、所得(Y)が増えれば貨幣需要曲線は上方シフト
→貨幣供給は所得が増えても変化しないため、均衡点が情報シフトし利子率上がる
→LM曲線は右肩上がりとなる
・マネーサプライが減少すると、利子率が上昇
→LM曲線が情報シフト
※利子率はマイナスになることはなく、必ず下限で止まる
利子率が低すぎると、マネーサプライを供給しても効果がでない
=「流動性の罠」
3 IS曲線とLM曲線
・IS曲線(財・サービス市場)は右下がり(Y=C(Y-T)+I(r)+G)
・LM曲線(貨幣市場)は右上がり(M/P=L(r,Y))
→交点(r,Y)は、「財・サービス市場」と「貨幣市場」の均衡を同時に満たす
・IS ーLM曲線の特徴と前提
→物価や賃金は固定(短期市場)
→企業は、生産水準を需要に合わせて速やかに調整(在庫なしの前提)
→消費は現在の可処分所得のみ依存(将来見通しなどは考慮しない)
→投資はコストとなる利子率に依存(投資収益などは考慮しない)
→中央銀行の政策手段は貨幣供給量(マネーサプライの操作)
ここまでIS曲線とLM曲線を整理しました。ここで考えていきたいことは、財政政策(政府支出の増減や税収増増減)及び金融政策(マネーサプライの増減)による生産(所得)への影響です。長期においては、生産は労働と資本によって決まるため、財政政策は実質利子率を増減してもその分投資が増減することで相殺され、生産(所得)は変化しないとしていました。金融政策についても、貨幣数量説(MV=PY)により物価で調整されるため生産(所得)は変化しません。
では、短期(ISーLMモデル)ではどうなるのかは、次回整理したいと思います。