【第10回】マクロ経済学(総需要)
前回はISーLM曲線と総需要曲線を作りました。その上で、マネーサプライの増減による動きをみてきましたが、今回はその動きを「財政政策」や「金融政策」として整理したいと思います。
1 財政政策・金融政策
・財政政策の場合
・政府支出(G)を増やすと、どうなるか
→IS曲線のみが右シフト(シフト幅は政府支出乗数) ※IS曲線:Y=C(Y-T)+I(r)+G
所得は増加、利子率は上昇
※Yの増加幅はISシフト幅より小さい(ケインジアン交差図)
なぜ小さくなるのか
・IS市場 政府支出(G)増加→所得(Y)増加→消費(C)増加を繰り返し
・LM市場 所得(Y)増加→貨幣需要が増加
マネーサプライは変化なく貨幣供給は一定なため利子率のみが上昇
・IS市場では利子率が上昇したため投資が減少
→クラウディングアウトが発生(G増加→r増加→I減少)
・減税(Tを減らす)の場合はどうなるか
→IS曲線のみが右シフト(シフト幅は租税乗数)
所得が増加、利子率が上昇
※Yの増加幅はISシフト幅より小さい(ケインジアン交差図)
なぜ小さくなるのか
・IS市場 減税(T減少)→消費(C)増加→所得(Y)増加→消費増加の繰り返し
・LM市場 所得(Y)増加→貨幣需要が増加
マネーサプライは変化なく貨幣供給は一定なため利子率のみが上昇
・IS市場では利子率が上昇したため投資が減少
→クラウディングアウトが発生(G増加→r増加→I減少)
・金融政策の場合
・マネーサプライ増加の場合はどうなるか
→LM曲線のみ右シフト ※LM:M/P=L(r,Y)
所得は増加、利子率は低下
なぜか
・LM市場 貨幣供給(M)増加→個人の債券購入や預金を促進(利子率を活用)
→利子率(r)低下
・IS市場 利子率低下→投資増加→所得増加
・金融政策と財政政策の相互作用
政策効果は他の政策動向に依存、例えば増税効果は金融政策に大きく影響
→中央銀行は「貨幣供給量を一定に保つ」、「利子率を一定に保つ」、
「支出(=所得・生産)を一定に保つ」を選択する
=ポリシーミックスを変えることで、異なる政策目標を達成可能
・増税効果
・中央銀行が貨幣供給量を一定に保つ場合
中央銀行はマネーサプライを一定に保つため、LM曲線は変わらない
→所得(Y)は減少、利子率(r)は低下、消費(C)減少、投資(I)増加
※Yの減少はIの増加でほぼ相殺される
・中央銀行が利子率を一定に保つ場合
中央銀行は利子率を一定に保つため、LM曲線を左シフト(Mを減少)
→所得(Y)減少、利子率(r)変化なし、消費(C)減少、投資(I)変化なし
・中央銀行が支出(=所得・生産)を一定に保つ場合
中央銀行はYを一定に保つため、LM曲線を右シフト(Mを増加)
→所得(Y)変化なし、利子率(r)低下、消費(C)減少、投資(I)増加
※Yが変化しない分、Cの減少分とIの増加分が等しくなる
・アベノミクスを短期視点で捉えると
増税(T増加)と政府支出(G増加)による財政政策と、
マネーサプライ増加の金融政策が行われていた。
→消費の減少分を政府支出でカバー、投資によりYの増加を図る
・IS曲線ショック 財・サービス市場への外生的ショック
・LM曲線ショック 貨幣市場への外生的ショック
例)金融政策、クレジットカード規制
2 ISーLMモデルと総需要曲線
・総需要(AD)理論
物価水準が一定である短期の国民所得についてISーLMモデルを見てきた
では、物価水準が変化する場合は、IS-LMモデルはどのようになるか
→物価水準(P)と所得(Y)の関係を総需要曲線として導き出す
・ISーLM曲線は物価が全く動かない状態の均衡だが、実際は物価が徐々に動く
→物価水準が変化すると、LM曲線のみがシフトする
・物価上昇で実質貨幣残高(M/P)は減少し、LM曲線は左シフト
→実質利子率(r)上昇、所得(Y)減少 =総需要曲線は右下がり
・財政政策:物価水準一定で政府支出(G)を増やす
→IS曲線が右シフトし、所得(Y)が増加
=総需要曲線は右シフト
・金融政策:物価水準一定でマネーサプライを増やす
→LM曲線が右シフトし、所得(Y)が増加
=総需要曲線は右シフト
3 短期と長期のISーLMモデル
・短期から長期への移行
長期:供給曲線LRASは垂直(生産(Y)は硬直的、物価(P)は伸縮的)
短期:供給曲線SRASは水平(生産(Y)は伸縮的、物価(P)は硬直的)
→マネーサプライが減少すると、総需要曲線(AD)が左シフト
→短期では、生産(Y)が減少し景気後退(物価水準(P)は変化なし)
→長期では、時間経過とともにAD曲線上で物価水準(P)が下落
→生産(Y)が徐々に増加し、自然水準に戻る
・ISーLMモデルの短期均衡と長期均衡
【短期均衡】
AD(総需要)=SRAS(短期総供給)
AD(総需要)≠LRAS(長期総供給)かもしれない ※逆も然り
→生産(所得)(Y)は潜在水準になるとは限らない
【長期均衡】
AD=SRAS
AD=LRAS
→価格(P)が変化し、生産(Y)は潜在水準に収束
・ケインジアンモデルと古典派モデルの比較
IS曲線(財・サービス市場) Y=C(Y-T)+I(r)+G
LM曲線(貨幣市場) M/P=L(r,Y)
※TとG、Mは政策変数であり外生(固定)
※Y、r、Pが内生変数であるため、その導出が必要
→ケインジアンモデル:短期的には物価は一定
Pは外生変数、Y,rが内生変数
→古典派モデル:長期の生産はKとLで決まる
Y=f(K,L)のためYは外生変数、rとPが内生変数
・1930年代アメリカ
失業率の上昇(1929年3.2%→1931年16.3%→1933年25.2%)
所得の減少(1929年のGNPは203.6→1931年169.5→1933年141.5)
→政府支出を削減(財政均衡を重視、所得減少の痛み分け的思考)
→マネーサプライ減少・利子率低下・物価水準低下(デフレ)が発生、なぜか
・ISーLM曲線で読み解く
①IS曲線へのショックの可能性
所得(Y)と利子率(r)が両方下落により、IS曲線が左シフト
※政府支出の減少、株式市場暴落などが理由
②LM曲線へのショックの可能性
マネーサプライが減少し、LM曲線が左シフト
※しかし実質貨幣残高は若干増加しており、利子率が上がっていないとおかしい
・デフレの不安定効果(予想外のデフレ)
デフレは貸し手に有利であり、購買力が貸し手に移転
借り手は支出削減し、貸し手は支出増加
→IS曲線が左シフトし所得Yは減少
・デフレの不安定効果(予想していたデフレ)
IS曲線をフィッシャー方程式で捉える(i=r+Eπ r=i-Eπ)
物価下落の中、個人は更なる物価下落を予想し期待インフレ率(Eπ)低下
→実質利子率は上昇し、投資は減少
→IS曲線が左シフトし所得(Y)は減少
・大恐慌の誤りを教訓にする
(マネーサプライ減少を放置、財政支出の縮減という誤り)
→その後の世界金融危機やコロナ禍では、積極的な財政金融政策をするように
今までは閉鎖経済における需要と供給を整理してきましたが、実際は他国との輸出入など開放経済がほとんどです。次回以降はその辺りを整理したいと思います。