【第7回】マクロ経済学(景気)について
今まではマクロ経済学における古典派、つまり長期の視点で見てきました。今回からは、短期の視点で整理したいと思います。
長期の世界は、賃金や物価は柔軟で価格による供給量・需要量の調整が行われているものでした。そのため、需給が均衡し、供給サイドにおいて産出は労働と資本で生産されるとしてました。(Y=f(K,L))
しかしながら、現実世界では様々な要因で経済は変動し、好況と不況を繰り返しています。まずは、景気について整理しながら短期の世界に入っていきたいと思います。
1 景気とは
・景気は循環する(”拡張”と”後退”を繰り返す → ビジネスサイクル)
その原因は明確ではない
→短期のモデルで景気循環を考えていく
・景気循環
山(peak)、景気後退(Recession)、谷(Trough)、景気拡大(Expansion)
直近の山は2018年10月、谷は2020年5月(コロナ不況)
→GDP成長率で見ることができる
・景気が悪い時には、設備投資が大きく落ち込む傾向
(実質GDPや消費よりも、設備投資が大きく変動する)
※コロナ禍は例外で、消費が設備投資よりも大きく落ち込んだ
・景気局面の基準
→水準によるもの
実質GDPなどについて「正常な経済活動水準」を想定し景気を捉える
※中国のような成長し続ける国は、景気循環が見えてこない
→方向によるもの
経済活動が最活発な時を”山”、最停滞している時を”谷”として捉える
※こちらの基準が使われている
・景気の計測
※範囲が狭く、また客観性に乏しい
→多部門の同時変動・共通変動の指数(景気動向指数)
※様々な経済活動に関する指標を統合し、景気の現状把握と将来予測をする
日本はこの指標を採用
・景気動向指数(CI)
内閣府が3種類の指標を毎月発表
→先行指数(11指標) 景気に先行する 例)新規求人数、東証株価指数
→一致指数(10指標) 景気に一致する 例)労働投入量指数、営業利益
→遅行指数(9指標) 景気に遅れて動く 例)完全失業率(逆サイクル)
※逆サイクルとは、指数の上下が景気の動きと反対になること
例)完全失業率は、景気が悪くなってから業績悪化になり人件費を切る
日本は終身雇用のため給与固定などで対応する傾向にあり、変動は小さい
・景気基準日付
内閣府が主要経済指標の中心的な転換点(山・谷)を設定
景気動向指数研究会の議論を踏まえ決定
・景気が悪いと、実質GDP成長率が下がり失業率が上がる
→この負の相関関係を「オークンの法則」と呼ぶ
2 総需要と総供給
・価格は短期では硬直的なため、数量(実質変数)が変動することで生産が決まる
※長期では資本と労働で生産が決まる
→貨幣が実質変数に影響する可能性
・AD(総需要)AS(総供給)分析
・総需要(AD Aggregate Demand)
所与の物価水準(P)で、人がどれほど財やサービスを購入したいか
貨幣数量説で考える(MV=PY)
→MとVが一定であれば、物価(P)が下がれば、より多く取引が可能
=総需要は増えていく
→縦軸に物価(P)、横軸に財やサービス(Y)を取ると、総需要曲線は右下がり
・実質貨幣残高(M/P)=k Y
マネーサプライが減少すると、財やサービスの需要量(Y)も減少
→総需要曲線は左にシフト
・総供給(AS Aggregate Supply)
所与の物価水準(P)で、人がどれほど財やサービスを生産しようとするか
=供給面の生産量
→供給に当たり企業が直面する価格(長期:伸縮的、短期:硬直的)
→長期総供給曲線(LRAS)と短期総供給曲線(SRAS)で考える
・長期総供給曲線(LRAS Long Run Aggregate Supply Curve)
古典派理論では、生産は資本と労働の量や技術水準で決まる
=生産(Y)は物価水準(P)に依存しない
→LRASは生産(Y)に対して垂直
LRASとADの交点が長期の均衡点
→マネーサプライが減少すると、ADは左にシフト
長期においては生産水準は変わらないため、物価水準は低下
・短期総供給曲線(SRAS Short Run Aggregate Supply Curve)
物価は固定であり、企業はこの価格においおて需要分のみ生産する
→SRASは生産(Y)に対して水平
SRASとADの交点が均衡
→マネーサプライが減少すると、ADは左にシフト
短期では物価水準(P)は不変のため、生産は減少
・短期から長期への移行
マネーサプライが減少すると、短期では生産が減少(物価停滞による景気後退)
長期では時間経過とともに物価水準がAD曲線に沿って下落
→生産が徐々に増加し、元の水準に戻っていく(物価水準は下落)
3 政府の景気安定化政策
・ショック=総需要曲線(AD)や総供給曲線(AS)に対する外政的な変化
供給ショック:ASが変化 例)原油価格高騰
・安定化政策=短期的な経済変動を緩和させるもの
・需要ショック
ADが左へシフトすると、短期的には生産は低下(物価は一定)
長期的には物価が下落することで生産は元の水準に戻る
→安定化政策では、生産が低下した際にADを右へシフトさせショック吸収
物価水準を下げることなく早期復帰させる
物価高騰などにより、物価が硬直的な短期供給曲線が上方シフト
→ADは変化がないため、生産が減少し物価が上がる
(スタグネーション(生産減少)とインフレーションが組み合わさる)
・供給サイドのショックへの対応
→放置
時間経過に伴う市場メカニズムにより、物価水準が下落し生産が戻る
※戻るまでのコスト(不況の痛み)を受けなければならない
→総需要の刺激
マネーサプライ増加などでADを右シフトさせ、生産を戻す
※早期に復帰するが、物価は高止まりのままとなる(ハイパーインフレの危険)
今回は景気について触れつつ、短期における供給を見てきました。ここでの前提は、総需要はMV=PYに基づくものでしたが、次回は総需要の方をさらに深掘りしていきたいと思います。