「女性はなぜ活躍できないのか」をご紹介
先日、大学院で「ウーマノミクス」という言葉を広めたキャシー松井さんの講演を聞きました。日本における女性待遇の問題、そして今後の人口減少社会において女性活躍を推進することは経済成長のためには重要であることを改めて実感しました。
ではなぜ女性の待遇は日本で遅れているのか。少し前の本にはなりますが、面白い本がありましたのでご紹介します。
1 基本情報
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◆書名 女性はなぜ活躍できないのか
◆著者 大沢 真知子
◆出版社 東洋経済新報社
◆出版日 2015年3月15日
2 概要
(1)背景
◆女性労働問題=人口減少への量的措置
(1987年~男女雇用機会均等法:能力の活用、質の向上)
◆管理職の女性の少なさ
・そもそも希望する女性自体が少ない
→意識改善、女性が活躍しやすい場を作ることが重要
◆女性のM字型就労(30代で労働力が低下)
・従来:結婚、出産を理由に週路離脱
・現在:仕事への不満、行き詰まり感が理由(企業側に責任がある)
+晩婚化でM字の谷が広く浅くシフト
※欧米はM字型なし
・結婚や育児で離職する人は多いが、就業中断が少ない
=ワークライフバランスの充実、再就職の労働市場が整備されている
◆日本は男女の賃金格差がOECDで2番目に大きい(特に正社員)
・人事評価、業務配分など雇用管理面での問題
(定型型業務などやりがいのない業務による、生産性向上の意欲減退)
・女性の離職率が潜在的に高い(女性離職で被るコストを削減したい)
→女性への先入観が原因
→比較的生産性の低い女性のみ残ることになる
◆高学歴の女性が増え、キャリアの積み方が多様化(継続、転職、再就職...)
・初職の継続は少ない
・再就職市場の未整備による生産性の低い転職が問題
・若い世代ほど、結婚や出産を経ても継続就業や再就職を理想としている
◆少子化の原因≠女性の高学歴化
・未婚女性や既婚でも子どもがいない世帯の増加
・就労を継続している女性ほど、結婚していない割合が高い
(仕事を継続している又は転職し仕事を続ける女性の出産経験は少ない)
⇒日本の高学歴の女性は、仕事と家庭どちらかを選択している
◆子育ての機会費用の高まり(子育てによって諦めたものの金銭的価値)
・出産による昇進スピードの遅滞(短時間勤務の義務化、配置換えなど)
・労働時間が長い正社員ほど、上司からのイメージが良い
(2)制度と環境整備
◆日本の育児休業制度
・大手企業では、両立支援を福利厚生(≠生産性向上の戦略)
・中小企業は整備不足(業績に左右され、不景気においては自粛ムード)
◆ダイバーシティマネジメントの重要性
・消費の変化、顧客の多様化とサービス経済化、経済のグローバル化
→多種多様な人材採用だけではなく、適切に管理する仕組みづくりを
・プロダクト/プロセスイノベーション、外的評価の向上、職場内の効果
(正社員女性比率や女性管理職の増加、性差ではなく個人差で昇進を)
※女性活躍推進に成功している企業特徴
①トップコミットメント:経営トップ層が重要性を認識し目標値を設定
②女性活躍の環境整備:ロールモデルやネットワーキング
③女性活躍推進のプログラム導入:人事評価の見直し、両立支援
(3)将来に向けて
◆非正規労働の増大、IT技術の導入
・人的資本の蓄積減、将来の経済成長がマイナスになる可能性
※非正規の7割が女性
※非正規から正規への移動が少ない
→限定正社員の考え方
◆日本の制度
・子育て世代への税負担軽減(年収130万円の壁、企業側も保険料負担を意識)
◆貧困問題
・高齢者の貧困(単身世帯の15%が年収100万円未満)
・女性の貧困(育児や介護による就業中断、社会保障制度による低収入)
⇨人口減少社会における経済成長のため、将来に向けた提案
①雇用契約を有期限か無期限かに分け、同一賃金同一労働にする
・人材を節約するのではなく、人財として育成し定着してもらう
②再就職市場を整備
・眠れる人財の能力を活用
3 所感
日本社会が人口減少局面を迎え、また抜け出せないデフレを脱却するためには、少ない生産年齢人口をどう活用して経済成長をしていくかの視点が重要だと感じました。多くの行政では、増えゆく老年人口を活用して経済成長を促す取り組みをやりがちですが、本当に目を向けるべき対象は、生産年齢人口であるにも関わらず能力発揮できていない人財、すなわち女性であると。
「不遇な女性を救う」といった支援ではなく、「経済成長の取組における女性活用」のマインドを持つ企業が増えているのは、ESG投資における非財務情報の価値化が表していると思います。そのような取組を支援できる行政でありたいと改めて考えさせられました。